ゴルゴタへの旅(富士ヨハネ感想) [ヨハネ受難曲]

私が、ヨハネ受難曲を、
初めて演奏会で聞いたのが、
受難節の演奏会で、BCJのものでした。
10年くらい昔の事です。
その時に、三宮さんのオーボエの美しさに打たれて、
何て素晴らしい音だろう・・・とうっとりしておりました。
(後、櫻井さんの、コントラバスにもうっとりしました。
それから、ペーター・コーイ、のバス・ソロ・・・この人の為に
コンサートに通ったものです。)

その、三宮さんのオーボエで、まさか、
自分が歌う事になるとは・・・
2011年10月23日、富士市ロゼ・ホール。
ここが、その場所になりました。

その日は、朝から曇りで、あいにく富士山は頭を隠していました。
前日のゲネは雨でした。
素晴らしいソリストの声と、
ピリオド・オーケストラの音色に
本当に、うっとりして。
そして、マエストロ福島の、快速な指揮にのって、
全曲を通した我々は、少し自信を持って、
本番を迎える事になりました。

ゲネでも、十分素晴らしかったのです。
心が震えました。

しかし、本番の、この雰囲気は何なのでしょう。
I澤さんにお祈りをしていただき、
ステージに上がった我々。
後は、福島先生の指揮についていくだけです。

それは、本当に旅のようでした。

物語が進むにつれて、
物語に入っていく私がおりました。
それは、これまでの演奏会とは全く違ったものでした。

これまでの演奏会は、あくまで音楽のみが主体でしたが、
ヨハネは物語があり、音楽があります。
物語の中にすっぽりと、入ってしまった、私は、
挑戦的で、凶暴な群衆になりきったり、
コラールを歌って、人々の良心になったり・・・。

そして、ついにゴルゴタに、辿り着きます。
(24番を無事クリアして、ほっとして)

イエス様の、長い断末魔の声を聞いたとき、
私は、こらえきれずに、
舞台の上で、涙を流してしまいました。

これは、演奏者としては、あるまじき事です。
本当はあってはならないこと。

でも、それが起こってしまいました。
それほど、物語にシンクロしていたのです。

その時は、夢中でしたが、
後から、私が考えた事は・・・
バッハの緻密に計算された音の中には、
亡くなってしまた人を送り出す人の、
愛がみえると言う事です。
それは、イエス様の死だけでなく、
亡くなった、沢山の方への哀悼。

イエス様が亡くなった後の、
ヴィオラ・ダ・ガンバによる、
レクイエムのような30番の前奏・・・この曲のおかげで、
涙をなんとか収める事が出来ました。
きっと、これまでにもヨハネを歌ってきて、
ここで救われた人が、何人もいる事でしょう。
心が落ち着いてきました。

30番。素晴らしく美しいカウンターテナー、青木さんの
声が響いている中、
この、曲の激しい内的な暗さと、
途中の、ユダから出た勇士の歌詞の、躁的な高揚と、
そして、また暗さに、埋没していくその心の変化は、
愛する人を亡くしてしまい、残された人の心理に、
本当によく似ています。

客席からの、すすり泣きが私の耳に届きました。
聞いている皆様も、
私と同じ気持ちだったのでしょう。


そして、32番。
愛するイエスは、いつまでも心の中で生きている・・・
これは、亡くなった人の痛手から、立ち直りかけている人の、
柔らかな光がさしてくるような、そんな曲。
jaと、首を垂れるイエス様の、その優しさ。

しかし、やっぱり、まだ悲しい・・・
それが、ソプラノの藤崎さんの美しい35番アリア。
何度も、totと繰り替えす、
イエスの死への、美しい捧げもののような哀悼。

そして、長大なお葬式としての、39番。
安らかにお眠りください・・・そして、
お葬式の日の、青空のように晴れ渡る40番。
最後の「永遠に!」という所の、我々の祈り。

マエストロの腕が静かに降ろされ、
ヨハネ全曲が終わりました。
会場は、静けさに満ちていましたが、
だんだん拍手が沸き・・・
そうして、演奏会は終わりました。


イエスを亡くしてしまった人の、
その心の動きを、
バーチャルリアリティに味わってしまった私。

ほとんど、その場に居たと言っていいほどの
リアルさ。

そう、私は、本当に、
ゴルゴタま連れていかれてしまったのでした。
マエストロの指揮に連れられて。


音楽について、話したい事が沢山あるのですが、
今は、感情の方が先行して、
書けません。

また、後日落ち着いたら、
オルガンの長三和音の、ボディソニックの事とか、
19番のイエスの内面を書いた曲の扱いとか、
20番、マエストロの取った、ゆったりとしたテンポに
ついてとか、書けたら書きたいと思います。
私は、19番で鳥肌が立ち、
20番で、畑先生の、しみじみとした歌声に
本当に虹が見える思いでした。

他にも、黒いビロードの上の宝石のように、
暗いこの曲の中に、キラキラと光る、
美しい場面、音がたくさん散りばめられ・・・。

美しい思い出となって
私を包んでおります。
この美しい時間を与えてくださった
神に深い感謝を捧げます。


最後に、お世話になった、
鈴木団長と、
富士ベートーヴェンコーラスの方々、
ステージを支えて下さった方々、
ソリスト、オーケストラの方々、
ピアニストの先生方、
遠方より聞きに来て下さった方々、

最後に、マエストロ福島に
感謝を捧げて
終わりにいたします。

ありがとうございました。

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